小笠原マルベリー

「ガイドとしての心がけ」(2011年投稿文・再編集版)


 

ガイドとしての心がけ

(2011年投稿文・再編集版)

 

「エコツーリズムを学ぶ人のために」に投稿した文章です。

(231-233ページ)3ページのコラム

「世界自然遺産を目指す小笠原でのガイドにおいて」

2011年5月10日第1刷 世界思想社

真板 昭夫 編/石森 秀三 編/海津 ゆりえ 編)

 

「ガイドとしての心がけ」

世界自然遺産を目指す小笠原でのガイドにおいて

小笠原では、数年後の世界自然遺産登録を目指しています。

その点を踏まえて小笠原のガイドとしてのあり方を考えますと、

世界自然遺産という最高級の価値のある場所に恥じないようなガイドの行動・考え方が

要求されると思います。

つまりそこでガイドする人も最高級のガイドであるべきということです。

 

料理の世界で例えるとわかりやすいかもしれません。

ミシュランでの三ツ星レストランは、最高級の素材にプラスして、最高級の職人技があるはずです。

実際にはもっといろいろ評価項目があるのでしょうから、3拍子も4拍子も揃った上で、

三ツ星と評価されるのだと思います。

そうなっていれば、提供する料理について、お客様に高価格を提示でき、かつ満足いただけるのです。

これはエコツアーガイドでも同様に考えられます。

 

世界自然遺産という最高級の素材があれば、確かに、ガイドの質やストーリーがそれほどでもなくても、

それなりの評価はいただけるでしょう。

しかし、高価格を提示しつつも、参加者に満足いただくためには、

ガイドの質をかなり高めていくことが重要です。

小笠原のエコツアーというのは、小さな島の限りある最高級の素材を活用していくのですから、

持続可能なためにも提供できる量はおのずと限られます。

したがって、エコツアー事業者が、少ない参加者で事業として成り立つためにも、

高価格で提供していく必要があります。

 
では、ガイドの質とは何でしょう。

ここではダイビング業界を例えに出したいと思います。

私自身は、

ガイドの仕事をダイビング業界でダイビングインストラクターになることからからはじめました。

インストラクターは講習だけでなく、ツアーガイドも重要な業務の1つです。

インストラクター試験では、ダイビング関連知識はもちろんのこと、

参加者の安全管理・コントロール能力、緊急時の対応能力、

技術のデモンストレーション能力(やり方のお手本を示す能力)、

プレゼンテーション能力(説明内容、話し方や態度など)などの総合力が必要とされます。

 

これらはエコツアーガイドでも必要とされる基本的な能力です。

ガイドは総合技能です。

エコツアーガイド゙もこれくらいの総合的な基本能力が必要です。

エコツアーガイドとして、前述のような基本的なことが押さえられていれば、

参加者から少なくとも及第点はいただけるでしょう。

なんでもそうですが、ツボを押さえていれば、それなりの効果(参加者の満足度)は出るものです。

 
ただしこれらだけでは、まだ最高級の素材を扱うには物足りません。

さらには、経験、地域性、ツアーの組み立て能力、エンターテイメント性、

インタープリテーション能力、おもてなしの心、ガイドの人柄などがさらに重要です。

こういった部分はガイドの個性と応用技術ということになってくるのでしょう。

エコツアーというのは参加者にとってあくまでも楽しみですから、

この部分が参加者の満足度にとっては一番大きな要素であることは間違いありません。

個性や応用技術の部分で強いて2点挙げるとすれば、ツアーの組み立て能力と地域性です。

 

ツアーの組み立てについては、一言で言うとストーリーを作るということです。

つまりどういう風にツアーを始めて、どういう流れにして、どこで休憩して、

どういう風にツアーを終わらせるかということです。

一つあるいは関連する一連のプログラムの中で、うまくストーリーを完結させることがとても大事です。

きちんとした流れができて、ストーリーが完結していれば、参加者が十分な満足が得られます。

いい映画というのは、俳優の演技だけでなく、ストーリーが素晴らしいはずです。

さらにそのストーリー中で、適所適所で、

エンタテイメント・インタープリテーションの要素を混ぜ込めば、もう最高に近い評価になるでしょう。

もうひとつは地域性です。

地域のことをどれだけ知っているかで、

エコツアーでの解説での深みや幅広さがずいぶんと変わってきます。

参加者は旅行でその地域に来ているので、地域のことをいろいろ知りたいはずです。

たとえば、植物の解説ひとつでも、地域での呼び名や地域での用途などがあると、

さらに解説が楽しくなりますし、地域への印象が強くなるはずです。

さらに、参加者との対話では、自然の話しばかりではありません。

休憩中などは雑談も多いことでしょう。

旅行者である参加者はその地域のことをいろいろとガイドに質問してきます。

そこで地域のあらゆることにきちんと答えられることもさらなる満足度につながってきます。

 

ここまでガイドの基本的な部分と個性・応用技術のことを述べてきましたが、

実は、今現在、小笠原のガイドが最高級のガイドになれているとは自分自身も含めて思っていません。

これからみなで切磋琢磨して最高級のガイドを目指していきたいと思います。

世界自然遺産の名に恥じないように。

 

2020年現在、この投稿文を書いてから、10年近く経ちましたが、

気持ちはほとんど変わっていません。

 

付け足すところがあるとすれば、「おもてなしの心」でしょうか。

僕は今でもお客様対応で失敗を繰り返すのは、やはりここが足りないのだと思います。

分かってはいるのですが・・・スミマセン。

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    この記事を書いた人

    吉井 信秋

    大阪市旭区生まれ。 茨城県立水戸一高で硬式野球部所属。 北海道大学農学部林産学科(現・森林科学科)卒業。 某企業に就職、栃木県鹿沼市の研究所に配属される。 数年後、異動により東京勤務。さらに数年後、依願退職。 その後、小笠原・父島に移住。 島でいくつかの仕事を経験後、2000年独立開業。 小笠原で山歩き、森歩き、戦跡などの陸域専門ガイドを勤める。

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