小笠原のエコツーリズムとエコツアー(2011年投稿文・再編集版)
目次
小笠原のエコツーリズムとエコツアー
(2011年投稿文・再編集版)
企業診断2008年10月号に寄稿したものです。
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はじめに
環境のことを真剣に考えて行かなければならない現在では、
日常生活のみならず、ビジネスにおいても当然、環境に配慮していかなければならない。
そういう時代であるからこそ、エコ・ビジネスが脚光を浴びている。
そしてどんどん世の中に定着し始めている。
このエコ・ビジネス、今後はどんどん伸びていく分野であろう。
そして何を隠そう、私もそのエコ・ビジネスの一員である。
しかもかなり特異な地域と特殊な分野の。
ではこれから、小笠原のエコツーリズムやエコツアーについて述べたいと思う。
1.小笠原のこと
まず小笠原という地域が、東京近辺以外の読者層にはとてもなじみの薄い場所であろうと考える。
沖縄の近くと思っている人もいるくらだ。ドキッとした人いるはずです。
ごくごく簡単に言うと、伊豆諸島のはるか南、東京から約1000kmほどの場所で、
東京都小笠原村である。
日本列島とマリアナの中間くらいに位置する。
小笠原村には大小さまざまな島があるが、住民居住の有人島は、父島、母島だけである。
しかし小笠原村には、戦争で玉砕の地・硫黄島、日本最南端・沖ノ鳥島、
日本最東端・南鳥島も含まれるので、行政区域はかなり広範囲にわたる。
東京から1000kmも離れていると、当然飛行場があると思うだろうが、
実は現在においてもまだなく、おがさわら丸という定期船が、唯一のアクセスで、
25時間半の行程である。(2020年時点、24時間)
さらに、定期船は小笠原で3泊するので、小笠原を訪れるのは5泊6日の日程となる。
だから、日常忙しい読者層にはこの時点ですでに訪問が困難な島と感じていることであろう。
皇族や大臣、都知事クラスのVIPになると、海上自衛隊の救難飛行艇で往復する。
また、島民でも、重大なケガ・病気の場合は、同飛行艇で本土に運んでいただくことになる。
船での長旅を終え、ひとたび島に到着すれば、亜熱帯の南の島で、
澄んだ空気、青い海、青い空、きれいなビーチ、満天の星空、のんびりした雰囲気で、
皆さんの疲れた心身を癒すこと間違いなしである。
さらに小笠原はかつて一度も大陸とのつながりのない海洋島のため、
特異な生態系で、「東洋のガラパゴス」とも言われ、村では世界自然遺産登録を目指している。
(2011年遺産登録)
これで少しは興味を引いていただけたであろうか。
住民居住の有人島は父島・母島の2つであるが、
父島2000人程度、母島450人程度が居住し(2020年時点、父2150以上、母460程度)、
本土からの定期船のアクセスは父島までで、
母島へはさらに別の定期船ははじま丸で2時間程度かかる。
母島は父島以上に、人気(ひとけ)のない、のんびりした島である。
2つの有人島においては、父島に行政機関も集中し、観光客も圧倒的に父島に多く滞在する。
小笠原の観光は、海水浴、遊覧船やダイビング、釣りなどのマリンスポーツが以前から盛んであった。
その後、ホエールウォッチング、ドルフィンスイム、シーカヤックなどが行われるようになり、
マリンスポーツのツアーメニューも多様化し、
さらには、陸域の森林ガイド、戦跡ツアー、夜の自然案内(ナイトツアー)なども行われて、
観光メニューが一層多様化し、業者数も増えている。
2.エコツーリズムについて
村では、そういった経緯も踏まえて、現在、エコツーリズムを機軸とした観光振興を推進している。
エコツーリズムとは、地域の自然などの観光資源を対象に、地域が主体となって、
観光振興・地域振興・環境保全のバランスを取りながら実施する観光である。
そのためには観光資源への負荷を最小限にしながら、
参加者がそれを体験・学習し、地域に利益や貢献をもたらすという考え方が重要である。
このエコツーリズムの考えに基づいた旅行や旅行商品がエコツアーである。
環境省では、エコツーリズムの本質的要素として、もっと単純化し、
「ルールとガイダンス」としている。
地域はルールを作り、
エコツアー事業者は参加者にガイダンス(解説・説明に相当)をするということである。
それぞれをきちんと作っていくことで、その地域のエコツーリズムが推進され、
本物となっていくと考えている。
私は小笠原の父島で、エコツアー事業を展開している。
では実際、旅行商品としてのエコツアーとは何だろうと思う方も多いでしょう。
明確な定義がない現状では、自然ガイドによるツアーといったほうが分かりやすいかもしれない。
大雑把に言うと、たとえば、皆さんが自然環境豊かな観光地に行った時に、
バスガイドやタクシー観光ではなく、比較的小グループで、森林の中を自然解説しながら案内したり、
カヤックや船を使って海を案内しているガイドツアーだと考えるといいであろう。
つまり自然に関するスペシャリストによる解説つきのツアーである。
そこで、きちんとガイドや事業者が、ルールに基づき、
さらに自然環境や生態系に配慮して実施していればエコツアーと解釈していいであろう。
ただ、このガイドや事業者に関して、全国的な統一した資格はまだない。
地域によっては資格制度や登録制度を導入しているところもある。
小笠原でも部分的ではあるが、東京都や国有林が、特定のフィールドの利用において、
認定・講習を受けたガイド同行の制度を実施している。
ガイドの事業形態はまったくの個人経営の場合もあれば、
複数のガイドを抱える会社組織の場合もある。小笠原でも同様である。
エコツアーの場合、自然環境や生態系に配慮し、
観光資源への負荷を最小限にして実施するツアーであるから、
おのずと少人数で、時間をかけてゆっくりと、自然体験や自然解説をしていただくことになる。
エコツアーも基本的には楽しみのツアーであるから、その楽しみを重視し、
あまり堅苦しくならないように学びの要素も取り入れていければ理想的である。
エコ~というと誤解されやすい点であるが、
ここで言っているのは、環境に負荷をかけないのがエコではないのである。
極論すると、エコ~も環境に負荷はかかっているのである。
だから従来のものより環境にかける負荷が少ないものがエコ~だと考えていただくといい。
観光分野でもマスツアーとエコツアーがよく対比されるのはそういうことである。
もちろんあらゆる分野のエコ~が、究極的に、
環境に負荷をかけないエコを目指していければ理想的である。
3.エコツアービジネス
エコツアーをビジネスとして考えた場合、少人数制が基本であるから、
ある程度のツアー単価をいただかないと、事業としては非常に苦しいものとなる。
だから、一般商品で言うと、少量・高品質・高単価なものとならざるを得ない。
エコツアーが提供するものは地域資源というハードと解説などのサービスというソフトの両面があり、
ハードとソフトの両面での高品質を目指さなくてはならない。
今までは、どちらかというと、屋久島・小笠原・西表島など、
このハードにすぐれた、自然資源豊かな地域からエコツーリズムがはじまっていた。
しかし、最近では、ハードだけに頼らずソフトとをうまく組み合わせて、
エコツーリズムに取り組み始めた地域も出てきている。
そうなると、ハードにすぐれた地域も、ソフト面を強化していかないと遅れていってしまうことになる。
観光地がリピーターを作るには、やはりソフト面が寄与するところは大きい。
ビジネスである以上、内容(品質)とともに、営業面も重要である。
いくら内容に自信があっても、きちんとPRをしていかないと売り上げにはつながってこない。
そのことを端的に表現しているものがある。
福井県の「せいわ(箸販売など)」という会社の商売繁盛二十訓のその6、がそうである。
「品質第一、しかし、その商品を一度使ってもらう演出と仕掛けという販売力に知恵を出すこと」
ズバリである。
エコツアービジネス事業者のほとんどは小規模だから、PRには大きな費用はかけられないことが多い。
だから、PRはホームページを主体にして、参加者の口コミによる効果を期待していくこととなる。
メディアへは直接PR費用を使えなくても、
取材タイアップなどを利用するのは費用もかからず、PR効果が大きい。
4.小笠原のエコツーリズム
では実際に、弊店の現状であるが、基本は私がガイドを担当し、
妻が予約受付・ガイドサポートを担当し、事務は2人での共同作業である。
繁忙期には、わずかではあるが非常勤スタッフの応援を頼んでいるが、
実質ほとんどが夫婦2人の事業である。
それで、何とか専業でやっていける状態である。
昨年、定期船による乗船者は、約25000人である。
この数字には観光以外の島民の帰島、仕事なども含むものであるから、観光客はさらに少なくなる。
島民を除くと実質20000人くらいであろう。
実際には毎便3泊であるから人数以上の効果はある。
しかし、この程度来島者なので、他の仕事と兼業でやってるガイドもまだまだ多い状態である。
弊店の実績から見ると、定期船での乗船者数が350-400人くらいのときに、
売り上げの基本ラインに達することが多い。(2020年では乗船客がもっと多くないと厳しい)
便ごとの平均は400人強であるが、繁忙期と閑散期の差が大きいので、
年間のうち、1/3くらいの便は基本ラインに達しない。
背に腹は変えられないので、その分は、ピーク時に埋め合わせすることとならざるを得ないのだが、
そうすると、エコツアーとしての基本線(負荷を最小限に、環境や生態系への配慮)から、
やや外れる部分が出てくる危惧がある。
地域としても、事業者としても、閑散期を少なくしたいというのが観光の課題の1つである。
小笠原の成功事例としては、もう10年以上経つ話しではあるが、
ホエールウォッチングが冬場の閑散期からの脱却に大きく貢献した。
現在も効果は持続し、さらに同時期には、中高年の山歩きでも比較的集客ができている。
山歩きとホエールウォッチンがセットになって効果を発揮している。
次なる閑散期のターゲットは5月と11-12月である。
ここで、小笠原のほかの観光部門に目を向けてみたいと思う。
現在、父島の観光協会登録業者数は150強である。(2020年時点、さらに増えている)
ほとんどが個人あるいは家族経営の小規模な事業者である。
ガイド関係は、ガイド1人の個人事業者が多いが、
イルカ・クジラやダイビングなど船を扱うマリンスポーツ系はスタッフを数人抱えていいるところもある。
宿は民宿がほとんどで、家族経営が大半である。
そういう宿はせいぜい1人スタッフを雇う程度である。
飲食店・商店はスタッフを複数雇っているところも見受けられる。
母島は20数業者で、個人や家族経営が主体であり、父島より規模が小さいところがほとんどである。
小規模事業者がほとんどの状況であるから、
エコツーリズムを推進していくには、特定の事業者が単独でできるはずもなく、
地域として、各事業者や各団体が連携を取ってやっていく必要がある。
では各事業者がうまく連携が取れているかというと、実情はなかなかそうでもない部分も多い。
小さくても独立してやっている業者が多いので、それぞれの主張のぶつかりあいがあり、
なかなか合意点がつかめないきらいがある。「船頭多くして、船山に上る」に近いようなこともある。
各団体の連携で言うと、現在、エコツーリズム協議会およびいくつかの作業部会が立ち上がっている。
しかし、これも、作業部会の活動がなかなか進んでいない。
今後、この作業部会をいかに動かしていくかがまず課題である。
観光関連団体の連携は、ここ数年、比較的よく行われるようになって来ている。
小笠原では一般に、観光関連団体として、小笠原村商工会、小笠原村観光協会、
小笠原母島観光協会、小笠原ホエールウォッチング協会の4団体を指すことが多い。
この4団体と村とで、
エコツーリズム協議会の前身的な組織であるエコツーリズム推進委員会を立ち上げて、
活動を始めたころから活発に連携深めている。
さらに、この4団体は統合して1つの法人組織にするという検討が進み、
各団体の総会にはかられたが、1団体で承認が得られず、この計画は頓挫した。
今後は、事業者同士の連携、各団体の連携、それぞれいい方法を模索しながら、
地域としてまとまっていく必要がある。
地域内の競争もあるが、他のエコツーリズム地域との競争に負けてしまっては、
地域内の競争も意味のないものになってしまうからである。
みんなの努力で、みんなが笑顔で暮らせる島になっていければいいと思う。
5.小笠原での暮らし
わが家庭の南国暮らしを少々。私はもともと、南国暮らしにあこがれて、小笠原に移住。
早16年である。(2020年時点、28年経過)
その間に、結婚し、子供も長女・長男の2人を授かった。
現在は私の母も島に移住し、5人で暮らしている。
家族だけの自営業なので、休みは自分次第である。
メールチェックやブログ更新などの事務仕事や電話対応があるので、
休みはあるようなないようなそんな感覚ではあるが、
お客さんのいないガイド仕事がない日は、なるべくのんびりするようにしている。
子供と休みが合えば、海に行ったり、山歩きに行って、子供との時間を取るようにしている。
村内でのイベントもなるべく家族で行くようにしている。
日常的にも、朝6時半からの朝食時は一緒に食べ、
夕方5時から7時の間は自宅での家族との団欒タイムで子供と入浴、夕食を一緒にすごす。
もちろん、その後、夜の会議・会合に出席したり、ナイトツアーのガイドに出かけたりする日もある。
もちろん用事のない日は、子供と一緒に早い時間から寝てしまうことも多い。
夜に読書などしたいこともあるのだが、まあしょうがないと思っている。
子供との接触時間は、ややへ変則的なところはあるにせよ、
一般的なサラリーマンに比べて、かなり多いほうだろう。この当たりは、南国暮らしのいいところだと感じ
ている。
南国小笠原は超離島なので、なにかと不便なことは言うまでもないが、
いいところもたくさんある。
安全・安心・静か・のんびりである。都会の暮らしではないものが小笠原にはある。
子育てにはいい環境である。
では、この原稿もここまでにして、子供と海水浴に行ってこよう。
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2020年時点
10年以上も前に投稿した文章ですが、今でも、さほど修正なく使える文章です。
もちろん、小笠原での暮らしは、子供が育ったので、変わりました。
もう子供と遊ぶことはほぼないので、子供に取られる時間はありません。
しかし、トラブルを起こすと、まだ親の責任があります。たまにそういうことがあります。
今後も、ガイド業で暮らしながら、老後まで生活できればと、60歳近くになり感じています。
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