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「小笠原のエコツーリズム」(寄稿文・再編集版)


 

「小笠原のエコツーリズム」

(寄稿文・再編集版)

 

「エコツールズム推進法の解説」に、

(2008年初版  株式会社ぎょうせい 編著・愛知和男・盛山正仁)  

先進地域からのレポート「小笠原」を執筆しました。

 

2008年より前の原稿ゆえ、

2020年の現在ではやや古く、懐かしく感じるところもあるかと思います。

さて、小笠原のエコツーリズムは進んだでしょうか?

 

ここから本文        

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<小笠原のエコツーリズム>

 

1.小笠原の概要

小笠原の位置をごく簡単に言うと、

伊豆諸島のはるか南、東京から約1000km、

日本列島とマリアナ諸島の中間くらいに位置する。

行政区域は、東京都小笠原村である。

 

小笠原村には大小さまざまな島があるが、

住民居住の有人島は、父島と母島だけ。

しかし小笠原村には、

戦争で玉砕の地・硫黄島、日本最南端・沖ノ鳥島、

日本最東端・南鳥島も含まれるので、行政区域はかなり広範囲にわたる。

 

東京から1000kmも離れていると、

当然飛行場くらいはあると思うだろうが、実は現在においてもまだない。

定期船「おがさわら丸」が唯一のアクセスで、

片道25時間半(現在は24時間)の行程である。

この定期船は小笠原で3泊するので、

小笠原を訪れるには少なくとも5泊6日の日程が必要となる。

 

船での長旅を終え、ひとたび島に到着すれば、

亜熱帯の南の島特有の澄んだ空気、青い海、青い空、きれいなビーチ、

南国の植物、南国のフルーツ、満天の星空、

そしてのんびりした暮らしの雰囲気が待っている。

来島者の疲れた心身を癒すこと間違いなしである。

 

さらに小笠原はかつて一度も大陸とのつながりのない海洋島のため、

特異な生態系で、「東洋のガラパゴス」とも言われ、

現在、村では世界自然遺産登録を目指して取り組んでいる。(2011年登録)

 

小笠原は1830年から定住の始まった歴史の新しい島である。

初期の頃の移住者は、

欧米・ハワイ・マリアナ・伊豆諸島など多方面にわたっていたので、

小笠原はさまざまな地域の文化のミックスとなり今に生きている。

 

住民居住の有人島は父島・母島の2つである。

父島には2000人弱程度(2020年時点、2150人程度)

母島には450人程度(2020年、同程度)が居住している。

定期船「おがさわら丸」のアクセスは父島までで、

母島へはさらに別の定期船「ははじま丸」で2時間程度かかる。

 

 

2.小笠原の観光

小笠原の観光では、

海水浴、遊覧船、ダイビング、釣りなどの

マリンスポーツが以前から盛んであった。

その後、ホエールウォッチング、ドルフィンスイム、シーカヤック、

スノーケリングツアーなどが行われるようになり、

マリンスポーツのメニューも多様化した。

 

最近では、陸域の森林ガイド、戦跡ツアー、

夜の自然案内ナイトツアー、星空観察なども行われるようになり、

観光ガイドメニューが一層多様化し、業者数も増えてきた。

 

村では、そういった経緯も踏まえて、

現在、エコツーリズムを機軸とした観光振興を推進している。

私は、父島でエコツアー事業を展開している。

 

実際のところ

旅行商品としてのエコツアーとは何だろうと思う方も多いだろう。

自然ガイドによるツアーといったほうが分かりやすいかもしれない。

 

大雑把に言うと、たとえば、自然環境豊かな観光地に行った時に、

バスガイドやタクシー観光ではなく、比較的小グループで、

ガイドが森林の中をゆっくり自然解説しながら案内したり、

カヤックや船を使って海を案内しているツアーだと考えるとよい。

つまり自然文化に関するスペシャリストによる解説つきのツアーである。

 

ガイドや事業者が、ルールに基づき、

さらに自然環境や生態系に配慮して実施していれば

エコツアーと解釈していいであろう。

 

昨年、定期船を利用した来島者数は、約25000人である。

この数字には観光以外の島民の帰島、仕事なども含んでいるので

観光客はさらに少なくなる。

島民を除くと実質20000人くらいであろう。

実際には毎便3泊であるから人数以上の効果はある。

しかし、この程度の来島者なので、

兼業でやっているガイドもまだまだ多い状態である。

 

3.小笠原のエコツーリズム

弊店の現状であるが、基本は私がガイドを担当し、

妻が予約受付・ガイドサポートを担当し、事務は2人での共同作業である。

繁忙期には、わずかではあるが非常勤スタッフの応援を頼んでいるが、

実質ほ夫婦2人での事業といってよい。

 

実績は、

定期船の乗船者数が400人くらいあると売り上げの基本ラインに達する。

年間を通した平均乗船数は400人強であるが、

繁忙期と閑散期の差が大きいので、

一年の1/3くらいの便は基本ラインに達しない。

 

背に腹は変えられないので、その分は、

ピーク時に埋め合わせすることとならざるを得ないのだが、

そうすると、

エコツアーとしての基本線(負荷を最小限に、環境や生態系への配慮)から、

やや外れる部分が出てくる心配があり、ちょっとしたジレンマに陥る。

稼ぎの誘惑はなかなか手ごわいのである。

地域としても、事業者としても、

閑散期を少なくしたいというのが観光の課題の1つである。

 

1990年頃に始まったホエールウォッチングの事業化が、

冬場の閑散期からの脱却に大きく貢献した。

大きな成功事例の一つである。

現在もその効果は持続している。

うれしいことに今では冬場の閑散期には、

山歩きを楽しむ中高年の観光客が急増している。

山歩きとホエールウォッチングがセットになって

効果を発揮している。

次なる閑散期のターゲットは5月と11-12月にかけてである。

 

ここで、小笠原の観光事業のようすに目を向けてみる。

現在、父島の観光協会登録業者数は150強(2020年190近く)である。

ほとんどが個人あるいは家族経営の小規模な事業者である。

ガイド関係は、ガイド1人の個人事業者が多いが、

イルカ・クジラやダイビングなど船を扱うマリンスポーツ系は、

スタッフを数人抱えているところもある。

 

小規模事業者がほとんどの状況であるから、

エコツーリズムを推進していくには、

特定の事業者が単独でできるはずもなく、

地域として、各事業者や各団体が連携を取ってやっていく必要がある。

 

では各事業者がうまく連携が取れているかというと、

実情はなかなかそうでもない部分も多い。

小さくても独立してやっている業者が多いので、

それぞれの主張のぶつかりあいがあり、

なかなか合意点がつかめない。

 

団体間の連携に目を向けると、

現在はエコツーリズム協議会およびその下部組織として

いくつかの作業部会が立ち上がっている。

ここでの積極的な意見交換と合意形成が期待されている。

観光関連団体の連携は、

ここ数年、比較的よく行われるようになってきた。

今後は、事業者同士の連携、各団体の連携、

それぞれいい方法を模索しながら、

地域としてまとまっていく必要がある。

 

地域内の競争も必要だが、

他のエコツーリズム地域との競争に負けてしまっては、

地域内の競争も意味のないものになってしまう。

みんなの努力で、みんなが笑顔で暮らせる島になっていければいいと思う。

 

4.自主ルール

私たち小笠原の観光事業者やエコツーリズム関係者の誇りは、

人から言われる前に、自分たちで島の自然のことを考えて、

自主的に資源利用のルールをつくってきたことだと思う。 

 

最初につくった自主ルールは

ホエールウォッチングに関することで、

ホエールウォッチングが事業化された翌年の1989年には、

ホエールウォッチング協会が中心となって関係者間で

ルールを策定した。

さらには

小笠原村観光協会が中心となって定めた南島の利用に関するルールと

母島漁業協同組合が制定した

イシガキダイおよびイシダイの釣りに関する自主ルールも作られた。

この南島のルールは、東京都と小笠原村の協定による、

「南島および母島石門一帯の適正な利用のルール2002年制定)」に

実質的に移行していった。

 

その他にも2004年にはウミガメ、グリーンペペ、オオコウモリといった

特定の野生生物を保全する自主ルールが制定された。

これらは、

既に実施されていた観察ツアーに対応するものである。

さらに、ドルフィンスイムやドルフィンウォッチングのツアーが盛んになり、

イルカの生態系が内外から危惧されたことから、

2005年にはイルカに関する自主ルールも制定された。

 

小笠原の自主ルールは、制定した団体が管理運営も行っている。

しかし、ほとんどのルールについては、

罰則を伴うような制度は付加されていない。

あくまでも自主的なものであり、

ルールの遵守は、関係者間の相互チェックに頼らざるを得ない。

 

しかし、観光客がルール内容を知ることにより、

ルールを守らない観光事業者に対して、次回のツアー申込みを回避する、

ということもみられるようになってきた。

言い換えれば観光客による

ツアー事業者への監視の強化が図られているともいえる。

 

この度、エコツーリズム推進法が制定されたので、

私たちが作ってきた自主ルールの運用方法の可能性がひろがった。

これについても、

仲間たちが連携して、自分たちで応用を考えていきたいものだ。

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この記事を書いた人

吉井 信秋

大阪市旭区生まれ。 茨城県立水戸一高で硬式野球部所属。 北海道大学農学部林産学科(現・森林科学科)卒業。 某企業に就職、栃木県鹿沼市の研究所に配属される。 数年後、異動により東京勤務。さらに数年後、依願退職。 その後、小笠原・父島に移住。 島でいくつかの仕事を経験後、2000年独立開業。 小笠原で山歩き、森歩き、戦跡などの陸域専門ガイドを勤める。

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